似てる?似てない?m!lkの『イイじゃん』とaespaの『whiplash』を聴き比べてみた

TikTokを開けば毎日のように流れてくる、M!LKの『イイじゃん』。SNS総再生回数10億回を突破という、まさに社会現象レベルの大ヒット曲です。
私がこの曲を初めて聴いた時、「あれ? このサビ、どこかで…」と感じました。そう、2024年10月にリリースされたaespaの『Whiplash』です。M!LKの『イイじゃん』の先行配信は2025年2月。時系列を考えると、似ていると感じるのも無理はありません。
ネット上でも「似すぎでは?」「これはパクリ?」といった声が飛び交っています。果たして本当に似ているのでしょうか。それとも、まったくの別物なのでしょうか。
この記事では、両方の楽曲をヘビーローテーションで聴き込んだ私が、音楽、歌詞、パフォーマンスの観点から2曲を徹底的に比較分析します。
まずは2曲の基本情報をチェック
比較を始める前に、両楽曲がどのような作品なのか、基本情報を整理しておきましょう。
M!LK『イイじゃん』|TikTokで10億再生超えの「予想裏切りソング」
M!LKの『イイじゃん』は、2025年3月にリリースされたアルバム『M!Ⅹ』のリード曲です。彼らの結成10周年を記念する楽曲でもあります。
最大の特徴は、公式が「予想裏切りソング」と呼ぶその構成。AメロBメロの爽やかなJ-POPから、サビで突如として「テックハウス」というクラブサウンドに激変します。このギャップと「ビジュイイじゃん」という肯定的な歌詞、真似しやすいダンスが組み合わさり、TikTokで爆発的に拡散されました。
aespa『Whiplash』|世界を席巻する「引き算の美学」
aespaの『Whiplash』は、2024年10月にリリースされた5枚目のミニアルバムのタイトルトラックです。彼女たちらしい、強烈なベースとハウスビートが特徴のダンス曲です。
この曲の凄みは、音を極限まで削ぎ落とした「引き算の美学」にあります。シンプルなビートと中毒性の高いシンセのループが、メンバーのカリスマ性とパフォーマンスを最大限に引き立てています。歌詞も「一瞥で彼らにむち打ち症を与える(One look give ‘em Whiplash)」という、絶対的な自信と支配をテーマにしています。
徹底比較|『イイじゃん』と『Whiplash』の類似点と相違点
お待たせしました。ここからが本題です。私が両曲を聴き比べて「似ている」と感じた点、そして「まったく違う」と感じた点を具体的に解説します。
似ているのはココ!|中毒性MAXの「サビ(フック)」を深掘り
結論から言えば、多くの人が「似ている」と感じる最大の理由は、サビ(フック)の音響です。
両曲とも、四つ打ちのハウスビート(M!LKはテックハウスと公言)をベースにしています。何より決定的なのは、サビで繰り返される「反復的なシンセサイザーのメロディライン」です。この音色とリズミカルなフレーズが、聴いた瞬間に「あ、似てる」と思わせるほど酷似しています。
この催眠的とも言える反復こそが、TikTokのような短い動画で聴き手の耳を掴む「フック」として、両曲に共通して強力に機能しています。
決定的に違うのはココ!|歌詞(テーマ)と楽曲構造
サウンドは似ていますが、その上で歌われるメッセージ(歌詞)は正反対と言っていいほど異なります。
『イイじゃん』は、「今日ビジュイイじゃん」「盛れててイイじゃん」と、他者を全肯定するメッセージです。視線は「私→あなた」であり、ポジティブなエネルギーを分け与える応援歌です。
一方、『Whiplash』は、「私が最も冷徹(I’m the coldest)」「私だけがこのゲームを変える」と、絶対的な自己の強さを宣言する内容です。視線は「他者→私」であり、他者を支配するほどの自己のカリスマを歌っています。
サウンドが持つ「役割」の違い
このテーマの違いは、楽曲構造の違いにも表れています。『イイじゃん』のテックハウスサウンドは、あくまでJ-POPからの「裏切り・驚き」の装置です。
しかし『Whiplash』では、ハウスサウンドは楽曲全体を支配する一貫した「美学」そのものです。この構造的な意図の違いは、非常に大きいと私は考えます。
パフォーマンスも比較|「スーパーいいじゃんタイム」と「スーパージゼルタイム」
興味深いことに、両曲ともサビで一人のメンバーがセンターに立つ、象徴的なパフォーマンスが存在します。
『イイじゃん』は、ファンから「スーパーいいじゃんタイム」と呼ばれるパート。センターのメンバーが「ビジュイイじゃん!」とカメラの向こうの私たちを指差し、肯定のメッセージを投げかけます。これは「一緒に楽しもう!」という参加型のパフォーマンスです。
『Whiplash』は、言わずと知れた「スーパージゼルタイム」。ジゼルがセンターで最小限の動きと鋭い視線でラップし、観客を「支配」します。これは「私を見なさい」という鑑賞型のパフォーマンスです。
センターをハイライトするという手法は同じでも、その意図は「共同体的な肯定」と「カリスマによる支配」という、まったく逆の方向を向いています。
結論|これはパクリか?私の見解
さて、サビのサウンドは酷似している一方で、テーマやパフォーマンスの意図は正反対であることが分かりました。では、私の結論です。
表面的な類似の奥にある、まったく異なる「戦略」
私の結論は、「パクリ(盗作)ではなく、戦略的適応」です。
『イイじゃん』の制作陣は、『Whiplash』がTikTokで成功した要因、つまり「反復的で中毒性の高いテックハウスのフック」という「メカニズム」を分析したのではないでしょうか。
そして、その「成功する音の型」だけを抽出し、M!LKというグループが持つ「爽やかさ」「ファンへの肯定」という真逆のテーマと組み合わせることで、J-POPの文脈で大ヒットする楽曲へと再構築した。私はそう分析しています。
TikTok時代が生んだ「機能的適応」という新しいカタチ
これは、TikTokというプラットフォームが音楽制作の常識を変えたことを象徴する出来事です。かつてはメロディやコード進行の類似性が問題になりました。
しかし今は、「どうすればバイラルになるか」という「機能」そのものが模倣され、適応される時代です。楽曲のオリジナリティが、アルゴリズムとの親和性によっても左右される。『イイじゃん』は、その最先端の事例と言えます。
まとめ
今回は、M!LKの『イイじゃん』とaespaの『Whiplash』の類似性について徹底的に比較しました。確かにサビのサウンドは驚くほど似ています。しかし、そのサウンドが運ぶメッセージやパフォーマンスの意図は、まったくの別物でした。
似ている部分だけを見て「パクリだ」と断じるのは簡単です。しかし、なぜ似せたのか、似せた部分を何のために使ったのか、という「戦略」まで踏み込んで分析すると、現代のポップミュージックの非常に興味深い姿が見えてきます。皆さんもぜひ、この2曲を聴き比べて、その違いを楽しんでみてください。